lightness flatness softness #3

lightness flatness softness #3

text by yosuke komiyama

My interest in lightness resulted in my master thesis, “about the receipt process of “light construction” in an architectural situation of Britain in the 19th century” in 2007. I researched about early iron construction in UK (1840s ? 1890s) to look for the origin of lightness. I would like to spend a couple of posts to explore this topic further.

先日、セントパンクラス国際駅に初めてドイツのICEが乗り入れた。2013年に開通が予定されているフランクフルト―ロンドン路線の試験走行を兼ねたものである。

ユーロトンネルを通行する車両は全長が375m以上必要との決まりがあり、ICEの車体はこの基準を満たしていないため二両連結して運行するのだという。この375mは、ユーロトンネル内に設けられた非常口間の距離らしい(どこで緊急停止しても、電車内を通って非常口までたどり着けるようにということだろう)。ゆえに、ユーロスター用プラットフォームには400mの長さが必要で、セントパンクラス駅が国際駅にリノベーションされる際に、「400mマイナス700feet(W.H.Barlowによる既存の大屋根)」分の新しい屋根が必要になった。

Barlowによるこの700feetの大屋根(1868年)をさらに遡ると、Barlowに協力しディテール面で貢献したもうひとりのエンジニア Rowland Mason Ordishにたどり着く(鉄製の床による構造体の緊結で屋根アーチのスラスト力に対抗することを提案したのはOrdishらしい)。Ordishは先立つ1851年にクリスタルパレスのディテールに携わり、万博終了後のシドナムへの移築に際しては責任者となっていた。

Ordishは1851年に処女作の鉄橋を設計し、1866年にインドでOwen Jonesと鋳鉄製パヴィリオンを設計し、1886年に亡くなった。Owen Jonesはクリスタルパレスのインテリアデザイン(色彩計画)を担当した人物であるが、1865年にセントパンクラス駅併設のホテルの設計者選定コンペに指名参加して負けた人物でもある(勝ったのはご存知G.G.Scott)。

Ordishが活躍した1851年から1886年は、クリスタルパレスからセントパンクラス駅まで、すなわちイギリスが19世紀の鉄骨造建築をリードしていた時代に符合する(セントパンクラス駅は1889年にパリ万博の機械館にその座を奪われるまで「シングルスパンの最大構造物」だった)。そしてOwen Jonesはその始まりと終わりにおいてOrdishと接点があったように思える。

ところでV&AでそのOwen Jonesの回顧展を見たことがある。

19世紀初めのリヴァイヴァル流行の中で、古い聖堂の内部が色鮮やかに彩色されていたことが発見された時代。彼は旅行先のアテネでGottfried Semperのアシスタントと知り合い一緒にエジプトまで旅する。カイロでイスラム建築に出会い、軍艦をヒッチハイクしながらイスタンブール、グラナダへとさらに進んでいく。彼はイスラム建築の装飾文様の中に「より高度な真実」を見出して、その文様の背後にあるシステムを明らかにするべく実測調査を開始する。アルハンブラ宮殿での6ヶ月に及ぶ調査のなかでエジプトから一緒に旅をしてきた共同研究者がコレラで死亡するが、ロンドンへ戻った彼はその調査結果を出版し、研究成果を元に1851年の博覧会でクリスタルパレス内装の色彩計画を一任される。幾何学文様を施された織物が天井から一定間隔で吊り下げられ何重にも重なり合うことで「もやもやと不明瞭な」雰囲気を持ったインテリアとなる予定だったがそれは実現しなかった。彼は大英博物館やルーブル美術館に足を運んで文様の研究を続け、大学の講義中に使用した図版を『装飾の文法』としてまとめる。当時最新鋭の顕微鏡によって明らかになった植物の細胞組成を文様として応用したりもした。文様による効果だけでなくその効果を成り立たせる文様の生成システムを研究したことで、後年の彼は方眼紙の上に自由に文様を自作できるようになる。建築の実作には恵まれず、その成果は壁紙やトランプとして販売されるにとどまったが、『装飾の文法』は150年たった今も増刷されている。

彼は自然にあるものを用いた文様に傾斜していくが、形態をそのまま模倣することは厳しく避ける。たとえば壁紙においては、花そのものを直接的に模写して敷き詰めてしまうと、壁の「flatness」が失われてしまうと言うのである。平面性が失われるということは構造的な機能の話をしているのかとはじめ誤読したのだが、おそらくこれは視覚効果のことを言っているのだろう。花の持つ要素を抽象化して単純な幾何学模様の繰り返しに陳腐化することで、注意を散漫にしてひとつひとつの模様に注視しないように仕向ける(flatness)。そして無意識の部分に、模様全体が群として面的に働きかけるという。

現存していないので空間体験はできないが、クリスタルパレスの内装は赤青黄に塗り分けられていた。また、セントパンクラス駅の大屋根は建設から復元までの120年間に18回塗り替えられている。軽いこと(light)が薄っぺらいこと(slight)と揶揄されることもあった時代に、物質量的には研ぎ澄まされながらも、体験上なんらかの効果を補完するために、色彩や文様(重量=ゼロ)といった「表面処理」が意味を持ったのではないか。そんな時代に『装飾の文法』を著したOwen Jonesと、彼の言う「flatness」(要素の抽象化と繰り返し、それによる無意識下の視覚効果?)が気になる。



Comments are closed.